大判例

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大分地方裁判所 昭和63年(わ)129号 判決 1989年1月20日

本籍

大分県玖珠郡九重町大字松木一五三番地

住居

大分市南春日町二番一八号

会社役員

藤田軍太

昭和一六年一二月二三日生

本籍

大分市大字宮崎一一一八番地の二

住居

同市宮崎台二丁目四番三三号

生花店経営

藤田康彦

昭和一八年二月二六日生

本店の所在地

大分市舞鶴町一丁目三番三八号

法人の名称

株式会社 富士商事

右代表者代表取締役

藤田三吉

右藤田軍太に対する詐欺、法人税法違反、右藤田康彦及び株式会社富士商事に対する法人税法違反各被告事件について、当裁判所は検察官松本弘道出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人藤田軍太を懲役三年に、被告人藤田康彦を懲役一年六月に、被告人株式会社富士商事を罰金二億円に処する。

被告人藤田軍太に対し、未決勾留日数のうち三〇日をその刑に算入する。

被告人藤田康彦に対し、この裁判の確定した日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

第一  被告人藤田軍太は、日野研二、戸髙伸支及び山守修次と共謀のうえ、納税代行名下に金員を騙取しようと企て、

一  土地の譲渡所得についての納税義務者である今吉美敏(当時六一歳)に対し、真実は同人から受領する金員を同人に代わって所轄税務署に申告納税する意思がないのにこれあるもののように装い、かつ、あたかも自己らが申告手続きをすれば有利な取り計らいを受けられるかのように装って、昭和六〇年二月中旬ころ、大分県中津市大字中殿二九五番地の同人方において、「うちの方で申告と納税をやれば少しは税金が安くなるのでよかったらやってあげる。」などと嘘を言い、更に、同月二三日ころ、同市大字上宮永九五五番地の九喫茶店「ルマンド」において、「あなたの税金は一六五〇万円になります。うちの方でこの税金を納付してあげますが、今準備できますか。」などと嘘を言って、右今吉をしてその旨誤信させ、よって、同日ころ、同所において、同人から現金五九一万円及び小切手一通(額面一一〇〇万円)の交付を受けてこれを騙取し

二  土地の譲渡所得についての納税義務者である古梶正子(当時六〇歳)に対し、真実は同人から受領する金員を同人に代わって所轄税務署に申告納税する意思がないのにこれあるもののように装い、かつ、あたかも自己らが申告手続きをすれば有利な取り計らいを受けられるかのように装って、昭和六〇年二月初旬ころ、大分県中津市大字上宮永一三〇六番地の一の右山守方から電話をかけ、「今年も県のほうから申告してくれる人が来るから頼んであげる。」等と嘘を言い、更に、同月二三日ころ、前記喫茶店「ルマンド」において、「お宅の税金は四三〇万円になります。」などと嘘を言って、右古梶をしてその旨誤信させ、よって、同日ころ、同所において、同人から小切手一通(額面四三〇万円)の交付を受けてこれを騙取し

第二  被告人株式会社富士商事は、大分市舞鶴町一丁目三番三八号に本店を置き、貸ビル、建設資材販売等を営業目的とするもの、被告人藤田軍太は、同会社代表取締役会長としてその業務全般を統括していたもの、被告人藤田康彦は、同会社の専務取締役として、被告人藤田軍太の指揮を受け同会社の営業、経理部門を統括していたものであるが、被告人藤田軍太、同藤田康彦は、藤田千克由らと共謀のうえ、同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、有価証券売却益を計上せず、あるいは経費を水増計上して簿外資産を蓄積するなどの方法により所得を秘匿したうえ

一  昭和六〇年四月一日から昭和六一年三月三一日までの事業年度において、同会社の所得金額が七億九〇六五万四四四四円でこれに対する法人税額が三億四一一九万八四〇〇円であるにもかかわらず、昭和六一年五月三一日ころ、大分市中島西一丁目一番三二号所在の所轄大分税務署において、同税務署長に対し、同事業年度の所得金額は零円でこれに対する法人税額も零円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同会社の同事業年度における正規の法人税額三億四一一九万八四〇〇円を免れ、

二  昭和六一年四月一日から昭和六二年三月三一日までの事業年度において、同会社の所得金額が八億八三五一万九一一六円でこれに対する法人税額が三億八一五七万九七〇〇円であるにもかかわらず、昭和六二年六月一日ころ、前記大分税務署において、同税務署長に対し、同事業年度の所得金額が七二万六〇九四円でこれに対する法人税額が二二万五〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同会社の同事業年度における正規の法人税額と前記申告税額との差額三億八一三五万四七〇〇円を免れたものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人藤田軍太の当公判廷における供述

判示第一の各事実につき

一  被告人藤田軍太の検察官に対する供述調書(検察官請求証拠の証拠等関係カード乙記載の証拠番号第二ないし第四号、以下、右証拠番号を「検乙第何号」のように、右カード甲記載の証拠番号を「検甲第何号」のように各略記する。)

一  日野研二の検察官に対する供述調書五通(検甲第七ないし第一〇号は謄本)

一  戸髙伸支(検甲第一二号ないし第一四号)、山守修次(検甲第一六号)の検察官に対する各供述調書の謄本

一  検察事務官作成の電話聴取書の謄本(検甲第二〇号)

判示第一の一の事実につき

一  山守修次(検甲第一七号、第一八号)、今吉美敏(二通)の検察官に対する各供述調書の謄本

一  司法警察員作成の捜査報告書の謄本(検甲第三号)

判示第一の二の事実につき

一  戸髙伸支(検甲第一五号)、山守修次(検甲第一九号)、古梶正子の検察官に対する各供述調書の謄本

一  検察事務官作成の捜査報告書(検甲第六号)

判示第二の各事実につき

一  被告人藤田康彦、被告人株式会社富士商事代表者藤田三吉の当公判廷における各供述

一  被告人藤田軍太の検察官(検乙第一四ないし第二一号、第二三号、第二四号、第二六号、第二七号)、司法警察員(検乙第一三号)に対する各供述調書

一  被告人藤田康彦の検察官(検乙第二九ないし第四〇号、第四二号、第四三号、第四五号、第四六号)、司法警察員(検乙第四七号)に対する各供述調書

一  髙野圭次(検甲第四三ないし第四五号、第六八号)、藤田千克由(検甲第五九号、六〇号、第六三号、第七〇ないし第七五号、第一一五ないし第一二一号、第一五八号)、戸髙伸支(検甲第六四号)、安部祐司、髙野千鶴、石川俊秀(二通)、和田正、坂井篤(五通)、松田健美、武内健二、高柳良雄、小野孝、木村弘章、藤田康子の検察官に対する各供述調書

一  大谷典久、久光通生、板谷勝弘、久原裕、柏樹隆、笹原秀介、望月輝明、岡恒男(検甲第九四号、第一一四号)、藤田勝久、中村朗、浜田守、伊藤政雄、加納和之、堀井孝人、中島将来、桑田勤、大川裕省、上坂慎吾、鈴木祥司、柴田叔毅、石榑精、高橋弘、朝木弘行、安部荘一郎、髙野圭次(検甲第一二五号)、岩瀬直久、藤村哲士、梶村悠、坂本啓治の司法警察員に対する各供述調書

一  伊能亨、山下邦彦、武井広敏、利廣、岡恒男の司法巡査に対する各供述調書

一  岡田孝司作成の「商品総仕入高調査書」「接待交際費調査書」「交際費損金不算入額調査書」「支払手数料調査書」「研修費調査書」「事業税認定損調査書」「前期決算修正額調査書」「前期損益修正額調査書」「欠損金当期控除額調査書」「租税公課調査書」「雑収入調査書」「役員賞与損金不算入額調査書」「罰科金損金不算入額調査書」と題する各書面

一  大田黒雄一作成の「有価証券売買益調査書」「有価証券売買取引に係る調査書」「支払利息調査書」「貸倒損失調査書」と題する各書面

一  司法警察員作成の捜査関係事項照会書の謄本(大分信用金庫中島支店作成の回答書を含む)

一  司法警察員作成の捜査関係事項照会書の謄本(大分信用金庫本店営業部作成の回答書を含む)

一  司法警察員作成の捜査関係事項照会書の謄本(株式会社豊和相互銀行鶴崎支店長作成の回答書を含む)

一  司法警察員作成の「証券取引運用ルート表に基づく株式会社豊和相互銀行関係者の供述内容等一覧表作成について」「証券取引運用ルート表に基づく大分信用金庫関係取引状況について」「株式会社富士商事が各金融機関から借入れた株投資源資の利息支払状況について」と題する各報告書

一  司法巡査作成の「(株)富士商事のスポーツウエアー(トレーニングウエア)販売先の大手企業に対する反面捜査について」「クレジットカードによる購入物件の捜査結果について」と題する各報告書

判示第二の一の事実につき

一  高柳良雄の検察官に対する供述調書(検甲第五五号)

一  岡田孝司作成の脱税額計算書(検甲第三九号)

一  司法巡査作成の「株式会社富士商事に対する昭和六〇年事業年度の法人税申告状況について」と題する報告書

第二の二の事実につき

一  被告人藤田軍太(検乙第二二号、第二五号)、同藤田康彦(検乙第四一号、第四四号)の検察官に対する各供述調書

一  髙野圭次(検甲第四七号ないし第四九号)、松尾修二(検甲第五〇号、第五二号ないし第五四号)、高柳良雄(検甲第五六号、第五七号)、上野利昭、藤田千克由(検甲第六一号、第六二号)、大蔵裕史、猪俣哲司、秦悟、川部国夫、戸髙伸支(検甲第一四三号)、小野芳昭の検察官に対する各供述調書

一  髙野圭次(検甲第四六号)、松尾修二(検甲第五一号)、熊谷公男、甲斐徳朗、向山昭太郎、内藤鉄二郎、阿賀豊、後藤政美の司法警察員に対する各供述調書

一  宇野輝彦、椎原ケイ、山本正則、望月敏生の司法巡査に対する各供述調書

一  岡田孝司の脱税額計算書(検甲第四〇号)

一  司法警察員作成の「株式会社富士商事にかかる昭和六一年事業年度の法人税申告状況の捜査について」「引落、圧縮された貸付金の反面捜査について」「引落、圧縮された仮払金の反面捜査について」「引落、圧縮された未収金の反面捜査について」「株式会社富士商事の簿外利益とそれに伴う法人税の修正申告について」「藤田軍太が作成にかかる各種カード預金口座元金の預け入れについて」と題する各報告書

一  司法巡査作成の法人税法違反被疑事件捜査報告書(検甲第一四八号)

一  商業登記簿の謄本

(確定裁判)

被告人藤田康彦は、昭和六三年四月一五日大分地方裁判所で詐欺罪により懲役一年六月(三年間執行猶予)に処せられ、右裁判は同年五月一日確定したものであって、この事実は調書判決の謄本(検乙第五〇号)、検察事務官作成の裁判確定証明書によってこれを認める。

(法令の適用)

一  判示所為 判示第一の各事実につき刑法二四六条一項、六〇条、判示第二の各事実につき法人税法一五九条、他に被告人株式会社富士商事につき同法一六四条一項、被告人藤田軍太、同藤田康彦につき刑法六〇条

二  刑種の選択 被告人藤田軍太、同藤田康彦につき判示第二の罪について懲役刑を選択する。

三  併合罪の処理 被告人藤田軍太につき刑法四五条前段、四七条本文、一〇条により刑及び犯情の重い判示第一の一の罪の刑に加重する。

被告人藤田康彦につき同法四五条後段、五〇条

被告人株式会社富士商事につき同法四八条二項

四  未決勾留日数の算人 被告人藤田軍太につき同法二一条

五  執行猶予 被告人藤田康彦につき同法二五条一項

(量刑事情)

本件詐欺の事犯は、大分県部落解放企業連合会会長であった被告人藤田軍太右連合会事務局長であった日野研二、同事務局次長であった戸髙伸支らが不動産仲介業者である山守修次と共謀の上、不動産譲渡所得につき納税義務のある者に対し右連合会を通じて申告納税すれば税金が安くなると申し向けその面前で税金額を計算してみせるなどして節税意欲をかきたてて巧妙に騙し、右連合会が代わって税金として納めてやるように装って合計二一二一万円もの多額の金銭を交付させたうえ、税務署に対しては必要経費を過大に計上しているいわゆるゼロ申告を行い右金員を税務署へ納入しないで右連合会と山守らが山分けしたという組織ぐるみの悪質な事案であるが、被告人藤田軍太は、右連合会会長として、山守修次の示唆を受けて右の犯行を決意し右日野研二らに命じて犯行を遂行させたものであり、実行行為には関与していないとしても、主導的な役割を果たした者としてなおその責任は重大である。

また、本件法人税法違反の事犯は、被告人株式会社富士商事の代表取締役会長であった被告人藤田軍太が、被告人会社の資産の充実をはかるなどの目的で、専務取締役であった被告人藤田康彦らに指示し、被告人会社が大量に売却したトレーニングウエアについて商品の仕入先から水増しをした請求書を出させる等して仕入れ価格を四〇パーセントも水増しするなどして多額の所得を隠匿させたうえ、それを被告人藤田軍太やその家族名義で株式投資の資金として運用し、その取引によって得た多額の利益をも秘匿していたという計画的かつ巧妙な事案であるが、二期分で合計一六億七三四四万七四六六円の所得を秘匿し、実に合計七億二二五五万三一〇〇円の法人税を免れたというまれにみる多額の脱税事犯であり、正規の税額に対するほ脱率もそれぞれ一〇〇パーセント、九九パーセントと異常な高率であり、まことに悪質、重大な事案である。しかも、未だに税金は納入されていない。

被告人藤田軍太は詐欺事件で起訴されその審理中(現在上告中である)に本件の各犯行に及んだもので、身を慎んで裁きを待つべき立場にある者の犯行として大いに非難されるべきである。

被告人藤田康彦についても被告人藤田軍太の指示によるものとはいえ部下の経理係員らを指揮して帳簿操作に当たったり、簿外資金の運用、管理などを担当していたもので、犯行の遂行について重要な役割を果していたものとしてその刑責は軽くないと言わなければならない。

したがって、被告人藤田軍太については、本件詐欺の損害は既に弁償されていること、税金についても国税局との間で分納の話合いを進めていると述べており、いたずらに放置しているわけではなさそうであること、同被告人は、本件を深く反省しており、胃ガンのため胃の全摘手術を受けた病弱の身であること、その他同被告人の部落解放運動への貢献等弁護人ら主張の同被告人に有利な諸事情も認められることを十分考慮しても、同被告人に対し刑の執行を猶予する余地はないので実刑として主文の刑に処するのはやむを得ない。

被告人藤田康彦についても、本件の詐欺と一連をなす詐欺事件により前記確定裁判欄記載の前科があることも考え合わせれば、その刑責には無視し得ないものがあるけれども、本件の犯行は右前科の裁判確定前の余罪にあたるものであるうえ、被告人藤田軍太の指示を受け、従犯的立場で本件法人税法違反の犯行に関与したものであること、同被告人は本件を深く反省し、今では被告人会社を退職して生花店を開き自力更生の道を歩んでいること等を考慮して、今回に限りその刑の執行を猶予することとしたものである。

(裁判官 楠井勝也)

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